原状回復工事の際の経年劣化・自然損耗・通常損耗による費用負担について
- 2022.5.11
賃貸住宅(アパート、マンション、一軒家)では、経年劣化、自然損耗、通常損耗による原状回復工事費用は建物オーナーの負担。特別損耗は入居者(賃貸人)の負担とするのが一般的です。
テナント物件(オフィス・店舗)は、賃貸借契約書や特約で経年劣化、自然損耗、通常損耗も入居者の負担としていることが多いです。
経年劣化、自然損耗、通常損耗、そして特別損耗について確認していきましょう。
目次
経年劣化・自然損耗とは、自然な劣化
紙やゴム、繊維、木材、金属などは、何もしていなくても時間の経過とともに劣化します。時間の経過とともに劣化することを経年劣化といいます。
例えば、壁紙や塗装は紫外線のダメージで劣化し、ゴムは酸素やオゾン、紫外線で劣化し、金属は空気中の酸素と結びつき錆びます。
賃貸物件に入居していても入居していなくても、壁紙などの劣化は避けられません。
また、経年劣化は経年変化とも言われ、不動産や資産では自然損耗という場合もあります。
通常損耗とは、普通に使ったことによる損耗のこと
通常考えられる使用での損耗を通常損耗といいます。
具体的には、下記などが通常損耗に該当します。
- ポスターを壁に画鋲(押しピン)でとめたことによる画鋲跡。
- 家具を設置したことによるカーペットの凹み。
- フィルター掃除などを定期的に行いながらエアコンを使用したことによる劣化。
- 清掃をしながら照明設備を使用したことによる劣化。
経年劣化・自然損耗と通常損耗の言葉本来の意味は違いますが、賃貸不動産では区別する意味はほとんどないため、経年劣化・自然損耗・通常損耗は同じ意味として用いられることが多いです。
特別損耗とは、故意などによる損耗のこと
- キャスターによるフローリングの凹み。
- 空調が故障したことを建物オーナー(管理会社)に伝えず、放置したことによる損耗(クロスのしみなど)
- 壁の穴
- クロスへの落書き
上記のような損耗を特別損耗といい、入居者(賃貸人)の負担による原状回復が必要です。
原状回復費用は耐用年数・経年劣化を考慮する
賃貸借契約で退去時の原状回復について特段の定めがない場合は、原状回復ガイドラインや民法で示されているように、経年劣化・通常損耗は大家さん(オーナー)負担で、特別損耗や故意による破損、清掃や注意を怠ったことによる損耗は入居者(賃借人・借主)負担で原状回復工事を行います。
※国土交通省:原状回復ガイドライン及び2020年4月施行の改正民法(賃貸借契約した日時により適応法令が異なるので注意)による。
耐用年数とは
原状回復で用いる耐用年数とは、償却資産税を計算するとき使用する耐用年数のことです。
オフィス、店舗に設置してあるカーペット、クロスなどの耐用年数は6年、木製の戸棚は8年、洗面台などの給排水設備は15年と定められています。
ただし、フローリングは破損した一部だけ交換すると見栄えが悪くなり、建物(部屋)の価値が上がるとは考えられないため、補修の場合は耐用年数を考慮しませんが、全面交換の場合は耐用年数を考慮することになりますので、ご注意ください。
耐用年数と負担割合
原状回復ガイドラインでは、耐用年数後(カーペットなら6年)に残存価値が1円になる直線(曲線)を描き、退去時の価値を算出し入居者とオーナーの負担割合を決めます。
また、新品のカーペットを入れたのが入居3年前だとしたら、直線の傾き(経年劣化係数)は同じ状態で3年後に残存価値が1円となるように直線を移動させた式で負担割合を決めます。
すでに残存価値が1円となっていた場合(耐用年数が過ぎた場合)は、賃貸物件として機能できる状態まで戻すための費用が借主負担(入居者負担)となります。
賃貸住宅の場合、契約が違法とされることもある
居住用の賃貸物件で通常損耗や経年劣化も含め、原状回復で「クロス、カーペットなどすべてを入居者の負担で入居した当時の状態に戻す」という賃貸借契約にすることもできなくはありません。
しかし、居住用の場合は消費者契約法などの法令が適応されるため、明確な同意と理由がない限り、契約自体が無効(違法)となる可能性があります。
オフィスや店舗、テナント物件おける原状回復工事費用の負担区分
事業用物件の場合、経年劣化・自然損耗・通常損耗・特別損耗の区分に関係なく、すべて入居者の負担で原状回復する賃貸契約にしているケースが多いです。
賃貸借契約書や特約に下記の記載があるかご確認ください。
- 原状回復について、どのような内容になっているか。
- 経年劣化や通常損耗についての記載があるか。
- 負担割合についての記載があるか。
- クロスなどの仕様について記載があるか。
- 原状回復すべき範囲について定められているか。
- 特約で「退去時のクロス貼り換え塗装、床材の貼り換え」などが定められているか
通常損耗・経年劣化の負担区分のトラブル事例と判例
賃貸マンションを使った小規模オフィスで、「使用実態が居住用と同じであるから原状回復ガイドラインを適応し通常損耗は建物オーナーの負担」とされた判例もあれば、オフィスビルで「原状回復条項に基づき、通常の使用による損耗、汚損をも除去し、賃借当時の状態に原状回復して返還する義務がある」とした判例もあります。
また、「賃貸借契約書や特約の内容が民法よりも優先される」との判例も出ています。
通常損耗や経年劣化による原状回復費用の負担区分をどのようにするのか賃貸借契約書や特約に明記されているのであれば契約書に従い、曖昧な場合は、使用実態、契約内容、契約時期(入居年)によって流動的に考える必要があると考えられます。
曖昧な契約はトラブルの原因
もし、賃貸借契約書や特約に曖昧な記述がある場合はトラブルになる可能性がありますので、早めに建物オーナーや管理会社と打ち合わせを行いましょう。
場合によっては弁護士に契約のすり合わせを依頼する必要があるかもしれません。
一般的に、事業用賃貸物件は退去までに原状回復を完了させる必要があります。
曖昧な契約の場合は、原状回復の詳細が決まってから原状回復工事をすることになりますので、工事期間を確保するためにも可能な限り早い段階で話し合うようにしましょう。
事業用物件の原状回復費用を低減するには、まず見積もり
居住用物件の原状回復と異なり、事務所や貸店舗など事業用物件の場合、原状回復を行ってから物件を明け渡す契約であることが大半です。
まずは、どこを原状回復させる必要があるのか、原状回復工事の見積もりを依頼しましょう。
金額交渉をする時間を考えて、余裕を持って依頼することがポイントです。
工事の見積書が入手できたら、下記をチェックしていきます。
- どの工事が経年劣化(自然損耗)、通常損耗による工事なのか、特別損耗による工事なのか把握します。
- 賃貸契約や建物のルールでA工事、B工事、C工事の区分を把握します。
- 工事内容が賃貸借契約書や特約で定めた費用負担、内容になっているか確認します。
- グレードアップしていないかチェックします。
- 入居者が負担する必要がないものが入っていないかチェックします。
チェックが完了したら、原状回復費用の削減交渉をしましょう。
原状回復におけるグレードアップとは
下記の工事などがグレードアップに該当します。
- シャワートイレではないトイレをシャワートイレにする
- 壁紙などの仕様を高価なものに変更する
- コンセント、スイッチ、照明を高価なものに変更する
グレードアップは建物の価値を上げるため、大家さん(建物オーナー)の負担が適切ですが、原状回復工事に含まれている場合もありますので注意が必要です。
俯瞰した立場から確認し原状回復費用を負担軽減
オフィスや店舗など事業用物件の場合、原状回復工事の内容を詳細まで把握することは非常に難しく、工事業者の指定などもあり、コストが非常に高くなりがちです。
減額交渉しようにも、下記のような難問が立ちふさがります。
- 見積書の明細や説明を受けても工事内容を把握できない
- 適切な価格(単価)が不明
さらに、賃貸不動産において原状回復のトラブルは裁判になりやすい部分でもあります。
困難な交渉が予想されるため、多くの企業様は減額を諦めることが多いのですが、プロの力を使うことで、スマートに原状回復工事の価格交渉ができます。
プロですから報酬が発生しますが、原状回復工事の見積価格から削減した金額以内の報酬であれば、オフィス・店舗移転に関わるトータルコストを削減できます。
まずは、無料で相談できますので、事業用物件から退去される際は、相談してみてはいかがでしょうか。
この記事のまとめ
経年劣化とは?
特別損耗とは?
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