建て替え・取り壊しビルの退去事情 ~立ち退き料の適正価格・相場は?~OWNEDMEDIA

建て替え・取り壊しビルの退去事情 ~立ち退き料の適正価格・相場は?~

  • 2024.2.29
建て替え・取り壊しビルの退去事情 ~立ち退き料の適正価格・相場は?~

2024年現在、東京都は100年に1度と言われる大規模再開発の真っ最中で、新築ビルが建つと同時に、既存ビルの建て替え・取り壊しが頻発しています。そのため、現在ご入居中のビルから立ち退きを求められているテナント様も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、立ち退きにおける基礎知識や、立ち退き料の相場などについてご説明します。

事務所用賃貸物件の立ち退きとは

そもそも「立ち退き」とは、建物のオーナー(賃貸人)が入居者である会社や店舗に対して、物件を退去するように申し出ることです。言い換えると、賃貸借契約の終了や契約満了で更新しない旨を伝えることを指します。

立ち退きにおける普通借家契約・定期借家契約の違い

①正当事由の有無

普通借家契約は、賃借人が希望すれば契約期間が満了しても契約は更新されるため、賃貸人は契約更新を拒否できません。そのため、立ち退きを要求するときには、正当事由をもって契約更新を拒否することを伝える必要があります。(借地借家法第28条より)

一方、定期借家契約は、期間終了後の更新はできません。そのため、賃貸人に正当事由がない場合であっても、契約期間満了に伴い、契約が終了します。

②立ち退き料の有無

普通借契約の場合、立ち退き・退去に応じる場合でも、多くの事例では立ち退き料を受け取ることができますが、定期借契約の場合には、立ち退き料の支払いなく、当然に立ち退かなければいけません。

立ち退きの正当事由とは

正当事由の詳細については、借地借家法第28条に以下のように定められています。

借地借家法28条
「建物の賃貸人による第26条第1項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、 建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」

〈正当事由を構成する6つの要素〉

(1)賃貸人が建物の使用を必要とする事情(例:建替え・再開発の必要性)

(2)賃借人が建物の使用を必要とする事情(例:営業の必要性)

(3)建物の賃貸借に関する従前の経過(例:賃貸借契約締結時の経緯、賃貸人の支払い履行状況)

(4)建物の利用状況(例:賃借人が契約に定められた目的に従って建物を使用しているか)

(5)建物の現況(例:建物の経過年数、大修繕の必要性)

(6)建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出(例:立ち退き料の提供)

※注意※ 立ち退き料はあくまで正当事由を補完するもの

立ち退き料は正当事由を補完するものであり、(1)~(5)の要素がある程度認められる場合、立ち退き料を支払うことによって、正当事由として認められます。逆に言えば、(1)~(5)の要素が認められない場合は、立ち退き料を支払っても正当事由として認められません。

立ち退き料の相場・適正価格

立ち退き料の相場について、「立ち退きを求める貸室の賃料1年分」や「賃料2年分」等と記載されているネット記事を多く見かけますが、実際、立ち退き料に関して相場や法的基準はありません。
では、どのように立ち退き料を決めるべきかというと、裁判所の場合、立ち退きによって賃借人に発生する経済的損失を基準として、立ち退き料を定めています。

立ち退き料の内訳

「立ち退きによって賃借人に発生する経済的損失」には以下のものが挙げられます。


1.移転費用(移転先の内装工事費用・インフラ整備費用・引っ越し費用等)
2.移転先の仲介手数料、礼金
3.移転前後の家賃の差額
4.休業補償
5.営業権の補償(主に店舗の場合)
6.借家権価格
7.諸費用(会社HP変更、営業届出の費用等) 等

100坪のオフィスの場合

仮に、100坪・坪単価2万円・月額賃料200万円の物件から、100坪・坪単価2.2万円・月額賃料220万円の物件に移転する場合、上記1~3の費用は以下のようになります。

〈1〉移転費用:3000万円~(坪単価30万~)
〈2〉移転先の仲介手数料(1か月)、礼金(1~2か月):660万円
〈3〉移転前後の家賃の差額(契約期間の2年分):480万円~
→合計:4140万円(旧賃料の約20カ月分)
※移転費用はビルグレード、内装仕様等によって、坪単価10万~50万と大幅に変動いたします。

判例

賃貸人が賃借人に対して一定額の立ち退き料を支払ったことにより、立ち退きの正当事由として認められた事案を2件ご紹介します。

①立ち退き料:5215万円(賃料の約54カ月分)
事由:建物の老朽化、近接する自己所有ビルとの一体再開発による建替えの必要性
内訳:借家権価格の2分の1+移転実費及び営業損失分
賃料:月額96万円
98-144.pdf (retio.or.jp)

②立ち退き料:4130万円(賃料の約13カ月分)
事由:建物の老朽化等に伴う建替えの必要性
内訳:借家権価格の2分の1
賃料:月額315万円
94-092.pdf (retio.or.jp)

まとめ

このように、事務所用賃貸物件でも、契約形態によって立ち退き料の有無に違いがあり、正当事由や物件によって立ち退き料の金額も変わります。ビルオーナーから立ち退きを要求された方は、当物件の契約状況を見直し、立ち退き料を支払ってもらえる場合、いくらが適正価格であるか、本コラムを参考に調べてみてください。もっと詳しく知りたい方は弁護士にご相談することをお勧めいたします。

この記事のまとめ

この記事を書いた人

ディレクター 柳澤 英一郎

Leasing Innovationの設立に伴い参画。B工事のコンサルティング会社で経験を積み、3,000社以上の査定を行っており、大手監査法人の大規模統合移転の退去プロジェクト等の実績を持つ。

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