【ブラインド交換】原状回復基準の必要性がわかるトラブル事例
- 2024.2.8
目次
民法における原状回復ルール
ビルを含む不動産の賃貸借については、民法621条において原状回復のルールが定められています。まずは、民法における原状回復のルールを確認しておきましょう。
民法621条「賃借人の原状回復義務」とは
賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年の変化を除く。 以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷 を原状に復する義務を負う。
民法上、原状回復が不要なもの
・通常損耗
やむ得ず発生してしまう床や壁などの痛みや損傷のこと
・経年変化
時間が経過したことによる物件の劣化や不具合のこと
・賃借人に帰責性がないもの
自然災害による損傷など
賃貸借契約書の特約における原状回復ルール
民法の原状回復に関するルールは「任意規定」です。
任意規定とは、法律の規定のうち、契約によって異なる定めをすれば契約内容が優先されるものです。したがって、不動産賃貸借契約において、民法とは異なる内容の原状回復に関する特約を定めておけば、民法の規定にかかわらず特約が適用されることになります。
特にオフィスビルの賃貸借契約においては、原状回復に関する特約が定められるケースが大半を占めています。
※賃借人が個人の場合は、消費者契約法の適用があり、賃貸人有利の特約が無効となる可能性があります。
一般的な原状回復特約
・本契約の終了に際し、賃借人は、契約終了の期日までに原状回復を完了させた上で、明け渡さなければならない。
・賃借人は、賃貸借室に設置した諸造作・設備について、自己の費用をもって収去し、破損個所については、自己の費用をもって修理し、原状に回復して賃貸人に明け渡す。
・明渡しが遅延した場合には、明渡しまでの賃料倍額および違約金・遅延損害金を支払う。
・原状回復工事は、賃貸人または賃貸人の指定する者が行い、その費用は賃借人が負担するものとする。
民法と一般的な原状回復特約の違い
・原状回復工事完了のタイミング
民法:賃貸借契約が終了した後
特約:賃貸借契約が終了するまで
・通常損耗・経年変化の原状回復義務
民法:賃貸人の義務
特約:賃借人の義務
・原状回復工事を委託する業者
民法:指定なし
特約:賃貸人または賃貸人が指定する業者
・明け渡し遅延した場合の措置
民法:記載なし
特約:賃料倍額および違約金・遅延損害金を支払う
ビルごとの原状回復基準
大手ビルオーナーや管理会社が所有するオフィスビルの賃貸借契約書の大半には、原状回復基準書や原状回復仕様書というものが付随されています。
これには、床・壁・天井など各工事の仕様が詳しく記載されており、退去の際には賃貸人はその仕様の通りに原状回復工事を行わなければなりません。中には、内装材の品番まで基準書に明記されているケースもあります。
原状回復特約や基準にまつわるトラブル事例
退去時に入居時の状態に戻すために定められている原状回復特約や原状回復基準ですが、これらが原因でトラブルになった事例をご紹介します。
原状回復におけるブラインド工事
テナントAとテナントBは、原状回復工事において、ブラインドの全面新品交換を要求されていましたが、両テナントとも、契約書と見積内容が一致しないとして、賃貸人や指定業者に見積修正を依頼しました。
テナントAとBの情報は以下の通りです。
〈テナントA〉
入居年数 | 20年 |
原状回復基準書 | あり ブラインド:「洗浄、破損個所がある場合は羽交換等」 |
〈テナントB〉
入居年数 | 13年 |
原状回復基準書 | なし |
各テナントの主張ポイントとその結果
〈テナントA→指定業者への主張〉
原状回復基準にて明記されている「洗浄・破損個所がある場合は羽交換等」の規則を主張
約20年入居していることも考慮してほしいと主張
→結果:主張が認められ、105万円の減額
〈テナントB→賃貸人への主張〉
契約書の原状回復特約に、ブラインド交換に関する記載がなく、かつ経年劣化に関しては賃借人が払う必要はないと主張
→結果:主張は認められず、協議へ
テナントBに対する賃貸人の回答
▶経年劣化の費用負担に関して
改正民法により、2020年4月1日以降に締結された賃貸借契約については「賃借人は通常損耗や経年劣化については原状回復義務を負わない」となっているが、本契約は2011年に契約締結された賃貸借契約であるため、改正民法の適用対象外である。よって、経年劣化に関しても賃借人が原状回復義務を負う。
▶原状回復特約にブラインド交換の記載がない旨に関して
入居時に設置されているブラインドは、造作(建物の内部を構成する建具、畳、床、鴨居など、設備としては水道設備、空調設備のこと)に含まれるため、退去時にクリーニング又は交換が必要である。
今回の場合、長期間(10年以上)使用しているため、洗浄時に破損の恐れが多く、施工する業者の責任問題となるため状況を勘案し、クリーニングではなく、交換を選択した。
なぜテナントAの主張は認められ、Bは認められなかったのか
テナントAは原状回復基準があったため、どのような工事をするのか明確に規定されていたが、テナントBは原状回復基準がなかったため、双方の意見が食い違った。
まとめ
退去時に賃借人とトラブルにならないよう、契約書の原状回復特約もしくは原状回復基準に、どこをどのように戻すか細かく記述しましょう。仕様書の他に、図面や写真も添付しておくと、賃貸人と賃借人両方が原状回復工事の内容をイメージしやすくなり、トラブルは最小限に抑えられると思います。
しかし、原状回復基準がある場合でも、テナントAのように、契約書の内容が見積に反映されていないケースが多々ありますので、原状回復工事の見積が出たら、契約書との整合性を必ず確認しましょう。見積や契約書の見方が分からない場合には、専門家に相談してください。
また、見積内容や金額についてビル側に交渉する際、無根拠であったり、無理な要望をすると交渉は難航しがちです。弊社は自社交渉のアドバイス・根拠資料の提供も行っておりますので、自社で交渉したい方は是非ご相談ください。
この記事のまとめ
この記事を書いた人