原状回復トラブル事例と防止方法(判例あり)
- 2021.5.10
住居用、テナント用関係なく、賃貸物件を退去する際に行う原状回復を巡ってトラブルが多発しています。
国土交通省も「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を定め、原状回復について明文化された改正民法が2020年4月1日に施行されました。
しかし、改正前に契約したものは改正前の民法が適応になるなど、まだまだ原状回復のトラブルは多いままです。
そこで、実際の原状回復トラブル事例をもとに、原状回復に役立つ情報をご紹介いたします。
なお、オフィス・テナント向けの賃貸物件を対象にしておりますので、ご了承ください。
目次
事業用物件は賃貸借契約書・特約の内容が重視される
居住用物件の場合、消費者契約法で個人(消費者)への法的擁護や契約自由の原則の例外とされることが多いため、賃貸借契約書や特約の内容を無効とする判例も出ています。
一方、事業用物件の場合、消費者契約法の消費者に該当せず消費者契約法は適応外とされ、契約自由の原則により賃貸借契約書・特約の内容が重視されます。
契約自由の原則とは、「当事者間の自由な意思に基づいて契約を結ぶことができ、契約内容について国家は干渉せずに契約内容を尊重しなければならない」という原則で、近代私法の三大原則であり、平成29年(2017年)の民法改正により明文化されました。
なお、家賃改定などで契約を変更している場合もありますので、入居時の契約書だけではなく、最新の契約書まですべてチェックすることが大切です。
国土交通省のガイドラインと小規模オフィス
国土交通省の原状回復ガイドラインは、賃貸住宅向けのものであり、平成10年(1998年)に作成され、平成16年(2004年)、平成23年(2011年)に裁判事例、Q&Aを追加する改訂がありました。
あくまでも賃貸住宅に対するものであり、事業用物件には該当せず法的効力もありませんが、事務所として使用していたマンションを退去する際、「原状回復ガイドラインにそって原状回復費用を算出すべき」という判例(東京簡裁 平成17年8月26日判決)があります。
当事例では、事務所として使用するために設置したものは、コピー機とパソコンのみで、事務員も2名のみ。さらに居住用の築20年のマンションであることから、住居用の賃貸借契約と変わらないとされました。
ポイントは、事務所とはいえ住居用物件であり使用状況も住居用と変わらないと判断された点です。
逆に、賃貸テナント物件でガイドラインの適用を巡っての裁判もあり、ガイドラインの適応外とした判決もあります。
賃貸借契約書・特約の内容によるところが大きいですが、使用状況が居住用と同じであれば原状回復ガイドラインが適応になる可能性があり、使用状況が居住用とはいえないレベルとされるのであれば、ガイドラインは適応外になると考えられます。
事業用物件で契約のとおり通常損耗まで原状回復義務があるとされた判例
新築オフィスビルに入居し5年10か月で退去し、原状回復でトラブルになった判例(東京高裁 平成12年12月27日判決)です。
当事例では、賃貸借契約に原状回復条項があり「本契約が終了するときは、賃借人は賃貸期間終了までに造作その他を本契約締結時の原状に回復しなければならない」「本条に定める原状回復のための費用の支払は保証金償却とは別途の負担とする」とされ、造作物については「現状を変更する場合には賃借人の負担により行うものとする」記載などがありました。
契約内容により、「本契約締結時の原状に回復」することが求められていることから、通常損耗や経年劣化も含めテナント企業様が費用を負担し、耐用年数などは関係なしに入居時の状態にまで原状回復し返還する義務があるとした判決が出ました。
ポイントは、賃貸借契約書・特約の内容により原状回復の範囲や負担割合が決まるという点です。
別の言い方をすれば、賃貸借契約書・特約の内容で、原状回復の復旧範囲の負担が必要になるかが物件(契約)により変化します。同じビルであっても契約や特約の内容が異なれば、原状回復も変わってくるのです。
居抜き物件の原状回復トラブル事例
以前は、飲食店に多い居抜きでしたが、最近は通常のオフィスにも居抜き物件が出てきています。
居抜き物件であっても賃貸借契約書・特約の内容が重要なのは言うまでもありませんが、複雑になる分、トラブルも多くなりがちです。
スケルトンで入居した物件を居抜き退去
スケルトン状態の物件に入居した店舗・オフィスを退去する際、原状回復費用を払えないなどの理由で次の借主にドア、壁、天井、床などをそのまま譲渡する(居抜き)ケースもあり得ます。
居抜き退去でトラブルになりやすいのは、下記の点です。
- 退去時に壁や天井などのクロスを張り替える費用の負担割合
- リース品の譲渡はどうするのか(リース会社との交渉が必要)
- 不用品の処分はどちらが負担するのか
- 内装や設備、什器など償却資産の扱い(個別に耐用年数で計算する場合もあれば、一括し低価格で譲渡するなど多彩)
- 原状回復義務が次の次の借主(テナント)に移行(スケルトンに戻す義務が次の借主に発生)
居抜き退去は原状回復を行う退去よりも金額が抑えられることが多いですが、原状回復費用を払わないで済むケースはほぼありません。また、交渉する項目が多くトラブルになりやすいため、逆にコストアップになることも考えられます。
居抜きで入居した物件をスケルトンに原状回復
居抜きで入居した物件をスケルトンに原状回復する際のトラブルの多くは、原状回復の範囲です。
スケルトン状態の写真や、以前の入居者が行った工事(B工事、C工事)の内容が明確に分かれば良いのですが、ビルオーナー側の資料保管など、明確な根拠がほとんど残っていません。
原状回復の見積もりを取得し、賃貸借契約書や特約、図面を見比べ、ビルオーナー・工事業者と工事内容、負担割合などを交渉し、原状回復工事を行うことになります。
あいまいな契約はトラブルの原因
事業用物件の原状回復でトラブルを防止するには、あいまいな契約はせず、契約内容を守ることが最も重要です。
残念ながら、不明瞭な点が多い賃貸借契約書・特約であることが多く、原状回復や敷金(保証金)の返金などのトラブルが多発しているのが現状です。
もし、オフィスや店舗の移転や退去を考えていて、契約書に不明瞭な部分があるのなら、トラブルを回避するために原状回復工事の見積もりとおりの金額を受け入れるか、交渉をしてビルオーナー、管理会社、テナントが三方よしになるようにするしかありません。
管理会社やビルオーナーとの関係性を良好に維持したまま、交渉しトラブルを回避しスムーズにオフィス移転・退去するために、コンサルティングを受ける方法があります。
日々の通常業務に加えて移転業務が追加され、さらにオフィスビル特有のルールや不動産業界の慣習などに左右され、余裕がなくなってしまうことも防げます。 オフィス移転・退去をお考えでしたら、早めに相談されることをおすすめします。
この記事のまとめ
契約に不明瞭な点が多く、原状回復でトラブルになりそうなのですが、トラブルを回避する方法はありますか?
テナント物件の原状回復と居住用物件の原状回復の違いはどこにありますか?
ビルオーナーや管理会社との関係性を良好に維持したまま原状回復費用の削減は可能ですか?
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